カール・マルクスは社会と歴史を「所有」の視点で捉えようとしましたが、柄谷行人は「交換」に注目します。本講座は、柄谷の議論に依拠し、「ミクロな交換過程が国家や市場といったマクロな現象を創発し、社会が抱える本質的なジレンマを超克する」交換史観を展開してゆきます。基礎コースでは、社会の基層に位置する共同体に対して、計算社会科学を用いて、理解を深めます。
【各セッションの概要】
Aセッション(講師:中井豊):ガイダンス、自己紹介、共同体・ネーション・国家・市場をどう捉えるか(柄谷行人)
Bセッション(講師:岡田勇):共同体の進化ゲーム的解釈(評判の創発、間接互恵性モデル、集団的互恵性)
Cセッション(講師:中井豊):共同体のエージェント・ベース・シミュレーション(「我々」の創発、C. Schmitt の友敵理論)、全体討論
ネーションでは、内集団びいきの信条がメンバーに共有される点に特徴があるわけですが、異なる宗教や文化はそもそも互いに排他的であると自明視しており、そもそもこの信条がどう広がるかは謎に包まれています。本コースでは、宗教や文化をタグとみなし他者をタグと行為を基に評価する戦略が進化的に生き残り、 排他的な互助集団が創発することを示します。
【各セッションの概要】
Aセッション(講師:中井豊):ガイダンス、自己紹介、ネーションの起源
Bセッション(講師:中井豊):ネーションのエージェント・ベース・シミュレーション(内集団びいきモデル、外部排他性と内部互助性、ナショナリストとリベラリスト)
Cセッション(講師:中井豊):Weberの古代ポリス論再考、全体討論
国家の起源を、農民への略奪を止め貢納を受け取り見返りに保護を与える盗賊(守護)に求める考え方を略奪国家論と言います。この守護はある種の節度を示すため、闇雲な略奪を行う盗賊との闘いに勝てるか自明ではありません。本コースでは、盗賊、農民、守護、市民(貢納する農民)を想定し、守護と市民の同盟が進化的に生き残ることを示すとともに、守護の暴力が正当性を持つ正義と見做しうることを示します。
【各セッションの概要】
Aセッション(講師:中井豊):ガイダンス、自己紹介、略奪国家論と社会契約論
Bセッション(講師:中井豊):ステーツ(国家)の進化ゲーム的解釈(貢納と保護の役割分業システム、正当性の創発)
Cセッション(講師:中井豊):E. Jones の「ヨーロッパの奇跡」解釈、全体討論
市場とは多様な交換を効率的に行うシステムとして創発しました。そもそもアダム・スミスの見えざる手は市場システムにおいて価格の調整によって自然と需要と供給が均衡することを示しています。本コースでは経済学の文脈から市場や貨幣が創発する現象をシミュレーションによって再現します。またミクロ経済学とマクロ経済学を統合した精密な経済モデルから景気循環も創発現象とみなしうることを紹介します。最後にこの方法の発展研究として、中央銀行や政府が市場に与える影響について検討します。
【各セッションの概要】
Aセッション(講師:岡田勇):ガイダンス、自己紹介、創発現象としての経済システム(アダム・スミスとカール・マルクス)、貨幣の創発
Bセッション(講師:岡田勇):景気循環のエージェント・ベース・シミュレーション(マクロ経済学のミクロ的基礎付け、内在的経済モデル、動的平衡としての景気循環)
Cセッション(講師:岡田勇):中央銀行の金融政策、政府の景気対策の吟味、全体討論
柄谷は、共同体・国家・市場を、自由-拘束と平等-不平等の2軸に位置付けるのですが、自由かつ平等に位置するものがなく、未来に訪れるXと称します。本コースでは、現代社会に生まれつつあるXの兆しを、受講生の皆さんと探し、未来の社会を洞察してゆきます。なお、Xの例としてクラウドファンディングを取り上げ、ビッグデータの分析を通して、見知らぬ他者との交換関係が新たな社会関係資本を生み出しつつあることを示します。
【各セッションの概要】
Aセッション(講師:中井豊(18:30-19:30を担当)・岡田勇(19:40-20:40を担当)):ガイダンス、自己紹介、柄谷のX、未来社会の兆し(マイクロファイナンス、地域通貨、障害者アートビジネス)
Bセッション(講師:中井豊(18:30-19:30を担当)・岡田勇(19:40-20:40を担当)):社会関係資本の創発のデータサイエンス(クラウドファンディング
READYFOR の実証分析)
Cセッション(講師:中井豊(18:30-19:30を担当)・岡田勇(19:40-20:40を担当)):グループ作業、全体討論