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"Consensus Building" Seminar

セミナーの様子COMMEMTS

受講生の感想(2024年度)


【⑤「合意形成マネジメントの技術と戦略」クラス】
セッション1 合意形成マネジメントの技術

  • 今回のセッションで、専門的な合意形成マネジメントチームによる合意形成が市民との共創的合意に有用であることを理解しました。日本において、高田先生のように合意形成マネジメントを受託する組織体系はどのようになっているのでしょうか(組織化されているのでしょうか)。また、合意形成マネジメントに関する世界的なトレンドなどはあるのでしょうか。
    (講師より: わたしが合意形成の現場に入るときは、「学識経験者」として依頼を受け、その業務に必要な人員をその都度招集し、チームで取り組みます。わたしの知る限りでは、国内において合意形成を専門技術とする職能はまだ整備されていません。その点は合意形成が社会に浸透するうえでの大きな課題であると認識しています。合意形成に関する業務内容、報酬の算定方法、発注者と受注者との関係など整理すべきことはたくさんありますが、弁護士やアメリカのメディエーターなどの報酬体系は参考になるかもしれません。日本ではあくまで、まちづくりや景観保全などの業務に付随する形での合意形成の業務受注が多いと思います。)
  • 合意形成マネジメントの技術は「理論と実践に基づく技術」であると理解しました。今回のセッションで技術の一部をご紹介頂いたわけですが、その全体像を共有しているものはありますか?(高田先生の書籍ですかね)
    (講師より: すでに出版されている書籍としては『合意形成学』(勁草書房)、『社会的合意形成のプロジェクトマネジメン』(コロナ社)『The Consensus Building Handbook』(SAGE Publications, Inc)などが参考になると思います。わたしは現在、『できる合意形成〜紛争回避から創造的プロセスへ〜』というタイトルの本を、2025年の秋の出版を目指して執筆中です。)
  • 局所的風土性は多様でありチームの情報収集役が信頼関係を気づきながら対話しないと表面化が難しい印象を受けました(秘伝が忍術書にあるとの話でしたが)。情報収集役による方法以外で、インタレストを表面化が出来る方法、できた事例などありますか?
    (講師より: 局所的風土性をふまえたインタレスト分析では、まずそのステークホルダーの日常的なロケーションに身を置いてみることで、インタレストを深く理解することができます(たとえば漁業者であれば船に乗って海岸をみてみる、など)。また、現在ではステークホルダーのSNSでの発信内容はひとつの情報源になります。投稿内容も重要ですが、それ以上にその文面や文章表現、あるいは他者のコメントなどからそのステークホルダーのインタレストを読み取ることもできます。)
  • 髙田先生が関われた合意形成事業で、合意ができた後も同事業に関して新たな合意形成を継続的に行うことはあると思うのですが、そのような事後合意形成ではステークホルダーだけで上手く合意形成出来ているのでしょうか(それとも再度高田先生に依頼する形なのでしょうか)。
  • セッションの趣旨から少し離れますが、合意形成に関わった地域住民などの当事者にとっては、合意形成が終わってからがスタートだと思いますが、アドバイザー又はコーディネーターとして、プロジェクト終了後のフォローなどは何をどこまで実施されるのでしょうか。案件ごとに対応は変わってくるものと思料いたしますが、行政の担当者にバトンタッチ?地域住民の中から会議をリードできるような人材を見つけ出し、プロジェクト進行中は当該人材と伴走しながらノウハウを伝授していき、プロジェクト終了後にバトンタッチしていくなど、人材育成の観点で取り組まれているようなことはありますか?
    (講師より:ひとつは、ある事業において「合意を形成すること」に重点がある場合は、合意形成に関しての専門性をもったコーディネーターが関わることが望ましいと思います。そこから「公園のあり方を考える」「河川整備の計画をつくる」といったように具体の場のあり方に議論が移れば、それぞれの分野の専門家がコーディネーターとしての役割を担うことがあります。また、合意形成に関するルールとしくみが適切に整備された場合は、コーディネーターの技量に過度に依存せずに、合意形成を図ることも可能です。あとは、合意形成の初期段階から行政関係者や市民などが適切に対話を展開できるように話し合いのノウハウや知見を伝えながら、場をデザインしていくこともよくあります。)
  • 髙田先生の合意形成現場として、行政支援と市民団体をご紹介頂いたのですが、事業主体が民間企業の案件は「ない」のでしょうか。言い方を変えると、市民共創事業をしようという民間企業はあるでしょうか?
  • 上記とも絡みますが、これまでの高田先生の現場でステークホルダーに民間企業が入っている場合、その民間企業のインタレストはどのように表面化するのでしょうか。
    (講師より:わたしはこれまでに民間企業による事業の合意形成に関わったことはありません。ただ、以前のように「特定の専門家が考えてそれを地域に下ろしていく」という事業の進め方は現在ではリスクが高いとも言えます。共創の時代においては、提案の斬新さだけでなく、プロセスの正当性も求められるからです。したがって、民間企業においても、適切に計画の立案から合意形成を図っていくことはコストと創造性の点からも必須になっていると考えます。)
  • (講義内容から外れるかもしれませんが)そもそも、土木のバックグラウントから「合意形成」の研究にはいった背景や理由は何だったのでしょうか?
    (講師より:わたしは以前に建設会社で働いていた時、技術者が頑張ればいい公共空間ができると考えて仕事をしていましたが、実際には市民からはクレームばかりでした。その時に、歩道の緑地を市民が自分たちで大切に整備している様子などをみて、「洗練された形を実現するだけでなく、つくるプロセスにいかに市民がかかわるか」が公共空間の整備には大切な視点だと考えるようになり、「実践の合意形成学」を研究しようと思いました。)
  • 「合意形成」が日常的になると、どのような世の中になっていくとお考えですか?
    (講師より:わたし個人的には、世の中で「論破する」や「〜〜であるべきだ」といったような言説は減ってほしいなと思って、合意形成の現場に関わっています。)
  • 高田先生の記録についてのお話の中の、「パワーポイントに構造化して記録する」ということの実際の様子が知りたいと思いました。
    (講師より:以前に、静岡の興津で実施したワークショップは1時間半の時間で自由対話の形で行いました。話し合いが終わった瞬間にスライドを投影して、10分程度で振り返ってからワークショップを終了します。)
  • 合意形成学といわれると難しい学問に感じましたが、髙田先生のセミナーは聞きやすいので是非、子供達がいる学校等の場で講演活動をしてほしいなあと思いました。
    (講師より:わたしが勤務している博物館では、学校の先生向けに合意形成のセミナーを開催しています。また、中学生や高校生に向けた合意形成の出前授業をすることもあります。1時間の講義でも、「意見」と「意見の理由」を分けて考えることを示した上でグループワークを行うと、劇的に話し合いが上達します。)
  • 昔は、地域の繋がりやお祭り、3世代2世代同居も普通にあった時代に自然と合意形成は形成されていたのですね、その根底は他への配慮(思いやり)なのだと先生の話しを聞き感じとりました。
    (講師より:多様な人びとと日常的に接することは、確かに合意形成の現場では他のステークホルダーへの想像力を高めることにもつながると思います。)
  • 大規模事業を行う場合、事業者は安全、防災、渋滞対策等の公益や、早期の事業完了を目指した法的な手続きの円滑化を重視するが、市民の視点では自らの生活環境、地域の自然環境といったミクロの視点を有しており、視座の違いから対立が深まるケースが多いと考える。その場合に、事業者が地元に寄り添った視点を持つか、または市民が公益の重要性を認識するかが合意形成の鍵となるように考えるが、事業者やコンサル等の第三者は、市民に向けてどのように働きかけることが効果的か、先生のご経験やお考えがあれば、ご意見を伺いたいです。
    (講師より:現場の条件によって具体的な方策は異なってきますが、講義のなかで紹介したように、行政も市民も、それぞれのステークホルダーの「意見の理由」としての「インタレスト」を共有したうえで、それぞれのインタレストが満たされるような提案をつくる作業を進めていくということを現場で実践しています。)
  • 錦澤先生のセッションにおいて、合意形成に向けた利害関係者の特定にあたり、事前の参加者分析や論点の明確化が重要と学んだ。利害関係者を漏れなく選定するにあたってのポイントや、先生が心掛けていることがあれば、ご教示頂きたいです。
    (講師より:市街地整備や河川整備などの公共事業ではすべてのステークホルダーを漏れなく選定するというのは困難ですが、わたしが現場で意識しているのは話し合いの場に「多数の参加者」ではなく「多様な参加者」を招集するということです。限られた時間とマンパワーのなかでは、偏ったインタレストのステークホルダーが100人集めるより、異なるインタレストや属性、世代のステークホルダーを20人集められないかということを考えています。)
  • 忍術と情報収集の話が興味深かったです。忍者の役割が、時代劇で登場するような体術的なものよりも、もっと事務的な業務が重視されていたように感じます。今も昔も合意形成のため、似たような苦労をしており、歴史の流れの中で、それに対するスキルが熟成されてきているのだと思いました。小生は歴史が好きなので、これだけでも1回分のセミナーとしてお聞きしたいです。是非企画をお願いします。
    (講師より:「忍術と合意形成」でセミナーの内容を考えてみます。)
  • 今回セッションの最後に行われました質疑応答の中で、高田先生が、「落としどころ」という言葉は使わないようにしている、と言われた時、ドキッとしました。私はコンサルという立場であり、顧客である事業者と協議・打合せを行う際、事業者とステークホルダーとの「落としどころ」がどこなのか、どこに目標・ゴールを設定しておけば、双方円満に決着することができるか、といった観点で考えることが多く、多々「落としどころ」という言葉を用いています。ただし、高田先生の考えられている合意形成は、決して落としどころ=妥協点を見つけるものでなく、参加者である地域住民らが、とことん対話しぶつかり、それぞれの考え・意見を理解し合ったうえでの合意が取れた状態であることが分かりました。ビジネス上、衝突を避ける選択を選びがちですが、テーマ(住民との合意が不可欠なもの、など)によっては遠回りしながらも、真に納得できる決着点を模索するという方法も重要であると学びました。
    (講師より:わたし自身もそれぞれの話し合いの場において想定できる結果をまったく考えていないわけではないですが、それにとらわれすぎると議論を強引に誘導してしまったり、思ってもいない意見に適切に対応できないことがあります。それは合意形成マネジメントにおける大きなリスクとなります。)
  • 高田先生の“トラブルがあれば飛び込む姿勢”はとても素晴らしく思いました。なにかご相談・ご依頼事があった際はお声がけさせていただきます。なにとぞ宜しくお願い致します。
    (講師より:ぜひ、深刻なトラブルがあって、それを創造的に解決したいという現場があればお声がけください。)
  • 今回は、合意形成のノウハウに関して学ぶことが出来た。対象とされたのは、自治体のオーダーという、基礎自治体レベルのものであった。環境問題に関する国際会議レベルから佐渡でのトキの保護といったコミュニティレベルでの合意形成をみてきた中、その中間にあたる層の事例を扱ったものだったのかと思う。そこでは、ファシリテーターの機能がより重要になるのかと感じた。そこでは、ファシリテーターによる調整の役割など、ある程度のスキルが必用とされる。難しさと可能性を感じることが出来た。
    (講師より:合意形成マネジメントにおいてファシリテーターはとても重要な役割です。ファシリテーターとして適切に話し合いの場を進行するためには、理論と技術と勘が大切だと思っています。理論は座学などによって習得でき、技術もトレーニングによって磨くことができます。勘が働くというのは、自分なりの理論と技術をもって経験を積むことで、その時々の状況を適切に見極め、最適な選択肢を選び、行動できるということです。)
  • プロジェクトの導入段階においては、 スムースなコミュニケーション環境を醸成するために様々な工夫がなされていることを認識致しました。また、“自由に意見を出してもらえる環境づくり”も重要な点だと考えますが、一方で合意を図る事案に係る“制約事項”はどのタイミングで誰が共有するのでしょうか(制約事項には、条例やその他法的な要素、経済的な要素、時間軸など様々存在すると思います)。
    プロジェクト全体のスケジュール感や予算などについては、個人の主張やスタンスには直接的に大きな影響を与えるものではないと思われるため、当初の段階で示されるものと思料しますが、それ以外の個人の主張や意見・スタンスに影響を与えそうな“制約条件”については持ち出すタイミングに配慮はありますでしょうか。
    (講師より:制約条件は、議論の前提として合意形成プロセスの初期段階から共有していくことが大切です。一方で、時間経過のなかで制約条件が変わったり、あるいは「制約を変更すればみんなが納得できる案に到達できる」という状況も生まれます。その場合は、その都度であらためて制約条件を参照しながら、議論を展開することになると思います。)
  • コロナ禍のような状況下では対応も変わってくると思いますが、実際合意形成に係るパフォーマンス(質、量)は落ちたのでしょうか。(コロナ禍におけるM&Aプロセスは、Web会議システムを通じて行われ、買収対象となる企業の情報はバーチャルデータルーム(VDR)というweb上の書類保管庫に格納され、買手側はVDRを通して資料の閲覧及び精査をしますので、案件がクロージングするまで一度もface to faceで直接会うこともなく行われていました。顔を合わせた交渉では、移動時間、金銭的コストなど様々なコストが発生していましたが、Web会議システム導入によりそれらのコストが抑えられるだけでなく、より多くの参加者がプロセスに関与できるなど、むしろ得られるメリットの方が圧倒的に多く、また、交渉の質についてもコロナ前と比べて劣後した印象はありませんでした。)
    (講師より:コロナ禍においてwebで議論せざるを得ない状況になって、遠方のステークホルダーが参加できたり、あるいは対面での議論に抵抗のあった人が「耳だけ参加」した事例などもあります。オンラインやハイブリッド形式での会議が浸透したことは、参加者の多様性を担保するという点ではメリットもあったと考えています。一方で振り返ってみると、インタレストの相互理解の機会の観点からは、オンラインだとどうしても会議の時間だけのコミュニケーションになり、深いレベルでの相互のインタレストの共有は難しかったのだと実感しています。)
  • “合意した状態”(議論が集約していく)に至る過程では、複数のインタレストが絡み合い融合していきながら、それをファシリテーターが言語化し共通認識を醸成していくように捉えましたが、高田先生が関与するプロジェクトにおいて、各インタレストに重み付けを行い定量的な評価を加え判断材料として提供するようなプロセスはありますでしょうか(合意に至る変遷の解像度を高めたいと思いますが、次回のセッションで具体例が示されるのでその際に補足説明いただけると助かります。)。
    (講師より:あるテーマにおいてどのようなステークホルダーのインタレストが尊重されるべきか、という問いは非常に重要です。わたしは定量的にはまだその重みづけを行うような研究はできていませんが、現場での実践レベルでは「距離」を意識しています。距離は、物理的な距離と心的な距離の2つの要素があります。ステークホルダーがある事業の対象となっている環境とどのような身体的位置関係にあるか、シンプルに言えば、対象となる現場に身を置いているか否かということです。心的な距離は、当該テーマへの関わりの濃淡とも言い換えることができます。全く関係のない人が外野から大きな声を出していても、それは合意形成上で最重要視されるべき声ではないと考えます。)



    (2024年度⑤「合意形成マネジメントの技術と戦略」クラス、セッション1 にて)
セッション2 合意形成マネジメントの戦略
  • 合意形成のマネージャー、ファシリテーターの成長モデルがあるのか知りたい。
    (講師より:わたしは合意形成におけるマネージャーやファシリテーターの成長モデルを知らないのですが、ファシリテーターについては、①ワークショップなどの話し合いの場を適切に進行できる、②話し合いのなかで表面化していないステークホルダーのインタレストを引き出せる、③非公式な場も含んだ多様なコミュニケーションを通じて局所的風土性にもとづいたインタレスト分析が行える、④深いインタレスト分析にもとづいて多様な意見を組み合わせた案のフレームを提示する、⑤合意形成プロセスの後の展開としてステークホルダーの主体的な実践を促進できる、といったレベルを意識しています)
  • 高田先生の今回の2回のセッションは主に座学でしたが、学んだことをワークショップ形式でロールプレイングできるような機会があると、より活用できる内容になると感じました。ありがとうございました。
    (講師より:最近は行政職員向けの合意形成研修の講師をすることが増えていて、そこでは後半にロールプレイングによるグループワークを組み込んでいます。ファシリテーターと記録役、それにクレーマー役を設定して、わざと議論を荒れさせることで、その対応を理解するというものです。クレーマー役になった人も、「こういう風に進行役に返されたら文句を言いづらい」といったことも実感できます。)
  • 権威と権力、ヒト・モノ・カネ・情報といった資源あるいは、正当性の観点からは、合意形成の主役は「行政」ではないかという、身も蓋もない感想をもったいっぽう、そのような期待と幻想が強いと政治不信というシニシズムに陥る。個人的には、下から、横から、サイドから、ボランティアが合意形成をする力が身につける方向性で考えたい。
    (講師より:まさに権威と権力、ヒト・モノ・カネ・情報といった資源の不均衡がある現実のなかで、みんなでどのような選択をしていくのかということが合意形成の本質です。正義の観点からは、「最も恵まれない状況にあるステークホルダーの状況が改善される」という視点と、「あるテーマについてかかわりの深いステークホルダーの声が尊重される」という両方の視点を大切にしており、そのために適切なファシリテーターやマネージャーの位置付け、振る舞い方を現場の条件に応じて設定することが大切だと思います。)
  • 今はあまりにも全ての事を早く進めなくては行けない傾向にあるなか、ある程度、時間を掛けなければ成就できないことがある、それが合意形成ではないのかと感じました。
    (講師より:時間をかければ合意形成ができるかというと必ずしもそうではなく、時間的制約があるなかでできることに最善を尽くすという姿勢も時に必要です。全ての事項に合意できる場合とそうでない場合もありますが、大切なのは、限られた時間のなかで最初から諦めるのではなく、よりより合意を形成しようとする努力の姿勢にあると考えます。)
  • 紹介された事例では、関係機関のメンバーによる協議会と、市民がオープンに参加可能なミーティングや勉強会の2つの場を設け、並行して議論や意見交換を行う構図であったと考えるが、2者間の良好な関係性や透明性を確保するために協議会側が心掛けるべきことは何か。協議資料や記録をHPで公表するほか、公募委員を加える、傍聴可能とする、周知を徹底するなどあると思われるが、これまでのご経験の中でどのような取り組みがよい/悪いと考えられるか、ご意見を伺いたいです。
    (講師より:大切なのは、協議会のようなメンバーが固定された場での議論をオープンな場におろしていくのではなく、オープンな場での議論をサポートしたり修正したりする場として協議会のような場を位置付けるということです。わたしがかかわった事例では、協議会での議論も傍聴可能とし、記録もすべて公開することを必須としています。)
  • 合意形成が必要な案件に着手した場合、着地点に到達するまでの期間を先生はどのように見積もっているか。例えば半年で完了する、あるいは2年近くかけて議論を積み上げていくなど、課題の内容やステークホルダーの数等により異なると思われるが、お考えを伺いたいです。
    (講師より:経験的には、1ヶ月に1回の話し合いの頻度として、1年間それを実施すれば12回の対話ができるということを基準に考えています。12回の対話の機会があれば、最初の2回を発散型の対話に設定し、最後の2回を取りまとめの議論とすると、間に8回のテーマ別議論やフィールドワークを挟むことができ、丁寧に議論できると考えます。合意形成プロセスの時間設定については、案件取り巻く状況から見積もるというよりも、むしろ事業上の制約から考えることがほとんどです。また、内容によっても、すぐに決めないとならないことと継続して議論できることにわけることができる場合もあるので、むしろ合意形成プロセスではそれらをきちんと整理して、「いつまでに何について合意するか?」ということを共有しながら対話を進めていきます。)
  • 合意形成学の理論の上に、どのような実践の形があるのかを多く学ぶことができ、大変意義のある講義でした。ただ、形(tips)を真似して満足しないように注意したい。
  • AIやDX推進の取り組みでは、総論賛成・各論反対が起きやすいと感じてきました。例えば、部門内の情報を自分たちだけのものにしたいケースなどです。結局のところ、賛成の理由/反対の理由を整理できていないことや、顕在化されていない対立をあえて顕在化させたくないという推進側の態度にも問題があると思えるように思いました。隠された対立構造を顕在化させても、その後、きっと合意ができる。まずはそういう心持ちにマインドセットを切り替えたいと思えました。とは言え合意形成初学者として、これだけは絶対注意しろという点があれば、ご助言もらえると幸いです。
    (講師より:わたしが大切にしているのは、議論の発散を恐れないということです。最初から論点を絞って小さく議論しようとすると、むしろ制約条件だらけになり合意形成が難しくなります。当該のテーマを少しスケールアップして相対化し、議論し、その後に当該テーマであらためて何をしないといけないかという議論に戻ってくるというプロセスを多くの現場で実践しています。)
  • 今回のセッションにおいてご紹介ありました明石公園の事例、樹木伐採という観点では東京の神宮外苑と似たような事例である思いながらお聞きしておりました。現在都心部において樹木伐採に関する関心が非常に高まっており、限られた緑・残された緑の重要性について、市民や各種団体から声があがり、都心開発を難しくしていると感じています。神宮外苑については、初期段階の伝え方やコミュニケーション不足による“ボタンの掛け違い”が原因で対立・問題が深くなったと考えていますが(民間事業者の事業であることもポイント)、高田先生が初期段階から参画されていた場合、若しくは、対立構造が生まれた状態で参画された場合、どのような合意形成を図られるのか、大変興味があります。教えていただけないでしょうか。また、明石公園の事例では、明確な緊張緩和や対立構造を脱するきっかけ、ターニングポイントのようなものはあったでしょうか。
    今回のセッションで少し話に上がった明治神宮外苑については、自身が所属している業界的に、かなり興味を持って注目しています。高田先生がこの事業の合意形成を委託されたと仮定した場合、どのようにマネジメントしていくか、お考えをお伺いしてみたいです。
    (講師より:神宮外苑の問題に関しては、具体的に誰がどのようなインタレストのもとで対立に陥っているか分析できていませんが、仮に反対運動をしている市民側から依頼があった場合はまず「反対運動はやめましょう」ということを提案して、みんなが大切にしたいことと事業者側のベネフィットが両立するようなプランがないかということを市民主体で検討し、事業者などに提案した上で、これからできる神宮外苑の空間に市民としてどのように関わるのかということを議論するのが建設的なように思います。つまり、ここまで事態がこじれて進んでいる状況で「神宮外苑の環境のあり方」の合意形成が難しいと判断できれば、「これからの神宮外苑への市民の関わりかた」について合意形成を目指すという戦略を立てるかもしれません。
  • 先生からお話ありました検討会委員等の報酬の金額について、1年間で数十万円とお聞きし、大変驚きました。正直に、労力や活動内容、専門性に見合っていないように思います。私は建設コンサルという立場で業務に関わっていますが、初めてのこと、馴染みないこと、については単価の設定が難しく、金額感も不明であるが故に、まずは少額で契約されるケースが多いです。業務内容の価値や専門性の高さ、難易度を発注側にしっかりとアピールし、認めてもらう必要があると考えています。
    (講師より:合意形成の業務に関する費用の算定と、業務発注のあり方についてはとても重要な問題だと長らく考えています。合意形成上の問題でトラブルが発生し事業が止まったりした場合のコストを事前に算出できれば、それを回避するために必要な業務としてあらかじめお金をかけて実践する意味を事業者側の認識できると思いますが、現状では「起こるかわからないことにお金はかけられない」「トラブルが発生してから考える」というスタンスがほとんどです。)
  • 今回の事例では高田先生が自治体に雇用されているので、市民側からは「高田先生は自治体側の関係者」という認識で見られると思います(警戒される)。高田先生が市民との関係性を築くために重要視したことや具体的な取り組みがあれば教えて頂きたいです。
    (講師より:ワークショップなどで市民の声を受けてきちんと行政側にも指摘や要求を行うということを意識して実行しています。ファシリテーターが発注者の代弁者のように振る舞ってしまっては信頼を得ることはできません。行政から仕事の依頼を受ける時も「わたしが関わると行政的には面倒くさいですよ」と言うようにしています。)
  • 創造的対話を行うと、話し合いの流れで目的や目標がどんどん変化していくこともありそうです。そのように変化することは「参加者のインタレスト重視」や「参加者主体で出来ることを決める」という観点では重要で望ましい事のように思いますが、当初の事業計画からは内容的にズレたり遅延を伴うことが考えられます。このあたりの対話と事業計画性を上手くマネジメントするのに重要なことは何でしょうか。
    (講師より:目的や目標の具体度によると思います。たとえば海岸の保全事業で、事業の目的とそのための目標・工法までが定まった状態で、創造的な合意形成は難しくなりますが、「海岸沿いの土地を守る」という目的のもと、目標とする必要浜幅を議論して設定し、利用や生態系のこともふまえた工法をステークホルダーで検討していくプロセスは、むしろ事業計画を円滑に進行することにつながると考えます。)
  • ステークホルダーのインタレストを取得する方法として、将来的にはAIによって個人の潜在的な意見やインタレストを取得できるようになるかもしれません。このようにAIで取得した複数のインタレストから導出される合意案をAIが提案したら上手く合意形成できる(みんな納得する)でしょうか。(本セッションを聴講した印象としてはインタレストを抽出することと同じくらい、それの抽出の仕方(意見交換などのコミュニケーションによる関係性構築)も重要で、その両方がないと難しいのではと感じています)。
    (講師より:対立が深刻な場面では、AIによる選択肢の提示などはむしろ「機械に決められたくない」というステークホルダーの感情を誘発し、より紛糾する可能性があります。一方で、紛糾の状態を脱した時点で、新たな提案をみんなで模索する段階では、AIによる合意は、人びとの固定化したインタレストを変容させ、合意へとつながっていく可能性もあると思います。)
  • 市民共創による合意形成マネジメントをガイドライン化するのは難しいと感じました(現場は複雑だから)。そして、マネジメントを効率的に学ぶには多くの事例を知る必要があると思いました。今回の合意形成学セミナーを受講するというのもその1つの方法ですが、多くの事例を知れる方法(ソース)があれば教えてほしいです。関連学会も教えてほしいです(国内、国際)。
    (講師より:書籍では『合意形成学』(勁草書房)、『社会的合意形成のプロジェクトマネジメン』(コロナ社)『The Consensus Building Handbook』(SAGE Publications, Inc)などに、事例も含めて様々な知見が示されています。学会では、国内だと土木学会や都市計画学会などで合意形成の事例が多く報告されています。)


    (2024年度⑤「合意形成マネジメントの技術と戦略」クラス、セッション2 にて)


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